アメリカで盛んな、中高生が科学の自由研究を発表し成果を競うコンテスト「サイエンス・フェア」に関するノンフィクション『理系の子―高校生科学オリンピックの青春』を読みました。

地方の大会を勝ち抜いた精鋭だけが出場できるインテルISEFという大会があり、そこで受賞すると、賞金の他に奨学金の援助も受けられます。高校生の研究と言っても、

  • 核融合炉の製作
  • 自閉症の子供に対する教育プログラムの開発
  • PTSD患者を癒す馬を使ったセラピーの開発
  • ラジエーターを使った効率の良い太陽光発電装置の製作
  • テフロン生産時に排出される有害物質を低コストで除去する方式の開発

などなど、とても高校生の研究テーマとは思えないハイレベルなものばかりです。

「困ったこと」を解決したいという切実な想い

なぜ、中高生がこんな研究をしよう考えて、最後までやりとげられるのか。

単純に対象への知的好奇心のケースもありますが、身の回りの「困ったこと」を解決したいという切実な想いから始めた研究の場合、最後までやりとげようという気持ちが強くなり、ストーリーとしても感動的なものが多かったです。

例えばラジエーターを使った効率の良い太陽光発電装置の製作をした13際のギャレット・ヤジー。ギャレットはインディアン保護特別保留地でトレーラーハウスに暮らす貧しいネイティブアメリカンの家庭に生まれました。

住んでいるアリゾナ州ピニョンは冬になると気温が氷点下まで下りますが、トレーラーハウスにある暖房は石炭ストーブひとつだけ。石炭は高価な上、妹が喘息の発作を起こす原因になるため、毛布を体に巻いて暖を取る家族。しかし、寒気は容赦なく家族を襲います。

ギャレットは毎日放課後に、何時間も学校のコンピュータで石炭を使わずに暖を取る方法が無いかを調べ続けます。廃品の山から材料を探し、苦労の末太陽光発電装置を作りあげてトレーラハウスに設置。

その日の夕食後、お湯で皿を洗うことができた母親は「おまえのことを誇りに思う」とギャレットに伝えます。

ギャレットはその言葉を聞けただけでも満足しましたが、AISEF(アリゾナ・アメリカン・インディアン科学/工学フェア)へ研究を発表し、500以上の研究の中から一位に選ばれました。

「ハマれること」に出会うことの幸福

本書ではギャレットも含めて6人を取材し、それぞれのバックボーン、研究テーマを見つけるプロセスから研究発表までをまとめていますが、そのそれぞれに、バラエティに富む感動的なドラマがあります。

本書では「理系の子」をテーマにしていますが、別にサイエンスの分野に限らず、「夢中になれること」を見つけることで、人はこれほどまでに能力を発揮できるということを思い知らされました。「好きこそものの上手なれ」というのはこういうことかと。

子供が自ら興味を持ったことであれば、それがどんな内容だったとしても、やりたい気持ち、調べたい気持ちをスポイルするようなことだけはしちゃダメですね。子育てなんて、それだけで良いのかもしれません。

高校生科学オリンピックの青春 理系の子

高校生科学オリンピックの青春 理系の子